『NOMA手・上肢機能診断』とは

〈名称の由来〉
●私たちが初めてこの診断法を公にしたとき,名称は「手・上肢機能診断」としていました(中田眞由美・鎌倉矩子,2007 年日本作業療法学会ポスター発表).しかしこれでは普通名詞と変わりがありません.構想ならびに具体的方法の多くがオリジナルであることを示すためには,名称を固有名詞らしくする必要がありました.そこで考案者二人の名の中から「の」と「ま」の一字ずつを取り,ローマ字化したNOMA(ノーマ)を頭につけることにしました.耳慣れないと思いますが馴染んでいただければ幸いです.
●評価法ではなく「診断」としたのは,この評価法が問題発見型であることを強調するためです.手や上肢の機能に不具合がある時にその不具合の原因をつきとめること,それが本評価法のねらいです.身体不調を訴えてきた人に,医師がその原因をつきとめて(または推論して)病名をつけることを診断と言いますが,それと同じ意味を込めて「診断」としました.

 

〈用途〉
●軽?中等度の機能障害を有する手・上肢について,障害の質を特定し,治療的機能訓練において解決すべきポイントを明らかにすることを目的としています.
●個々の患者の機能改善の経過を記述するのにも役立ちます.
●軽微障害の場合(=作業速度や作業効率の精査が主目的になる場合),および最重度障害の場合は他の評価法の利用をお勧めします.
●『NOMA 手・上肢機能診断』はE機能診断Fですから,関節可動域評価や徒手筋力検査,あるいは作業速度の測定を行う各種検査との併用を阻むものではありません.

 

〈特徴〉
●『NOMA 手・上肢機能診断』は,鎌倉とその共同研究者が行ってきた手のかたちと動きに関する研究の成果を基盤にしています.これに,感覚・知覚評価に関する中田の経験知と,上肢機能評価全般に関する二人の経験知を加えてできあがったのが本『診断』の全体像です.
●『NOMA 手・上肢機能診断』は次の4つを基本原則としています.
1) 詳しい聞き取りによる生活上の問題(不自由)の特定を出発点とする.
2)「手の位置決め」「手のフォーム」「手の動きのパターン」ほか計8 種類の検査メニューを用意し,それらを1)の聞き取りの結果によって使い分ける(選んで使う).
3) 検査は日常物品と日常活動に近似した課題によって行う.
4) 検査結果の表記にあたっては,数値表記(量的表記)のみにこだわらず,記述的表記(質的表記)を重用する.
●検査法の大部分はオリジナルですが,感覚・知覚評価の一部,パワー評価,スピード評価には先行研究者のアイデアを取り入れています.

 

〈構成〉
●『NOMA 手・上肢機能診断』は,手・上肢使用状況の調査,検査メニュー8 種(A?H),および総合診断によって構成されます.このうちの検査メニュー8 種については,評価者が必要なものを選んで使うようになっています(十分な理由がある場合は,手・上肢使用状況についても,選択実施または省略することができます).
●記録紙の構成は次のとおりです.
1) フェース・シート:いわゆる表紙ですが,全体のプロフィールを示すページでもあります.被検者ID のほか,調査/検査概況,総合診断がここに記入されます.
2) 手・上肢使用状況:日常生活における手と上肢の使用状況を詳しく聞き取るための「調査記録紙」です.4ページから成っており,のべ145項あまりの動作のそれぞれが,① 問題なく実行している,②問題はあるが実行している,③ 困難または不能のため実行していない,④ 該当しない(不問)のいずれであるかを尋ねるようになっています.答が②または③に該当する場合は,問題・困難・不能の推定原因を10 の選択肢(A?J)から選んで?をつけるようになっています.
3) 検査メニュー8種:前項の推定原因A?J のうちA?H に対応する検査が準備され,それぞれの手順と記録書式がセットになって提示されています.
A.手の位置決め:手を到達させ,そこに保持することができる空間の範囲をしらべる検査です.検査空間として,A-1身体面,A-2机上面,A-3机上空間の3 種が準備されています.成績は図内に記入します.
B.手のフォーム:さまざまな日常品を扱う際に必要な手のフォームについてその基本類型を形づくることができるかをしらべる検査です.B-1 把握のフォーム,B-2 非把握のフォームの2 種類が準備されています.成績は,フォームの完成度と安定度をGood,Fair,Poor,Trace,Zeroの5 段階で表示し
ます.
C.手の動きのパターン:さまざまな日常品を扱う際に必要な手(5 本の指)の動きのパターンについてその代表的パターンを実行できるかをしらべる検査です.成績は,パターンの完成度と安定度をGood,Fair,Poor,Trace,Zeroの5段階で表示します.
D.感覚・知覚:物品の操作や手の位置決めにおいて,触覚・位置覚・運動覚等の感覚性フィードバックをどのくらい正確に利用できるかをしらべる検査です.D-1 つまみ上げ検査,D-2 母指さがし試験(平山ら)の2種類が準備されています.成績は,前者は小物品の探索・つまみ上げ・移動の可否によっ
て,後者は運動肢の位置ずれの大きさによって表示します.
E.パワー:手(5本の指)全体,または少数の指が生み出すことのできる力をしらべる検査です.E-1 握力,E-2つまみ力の2種類が準備されています.専用の機器を使って測定します.
F.スピード:母指屈伸および上肢屈伸の速さをしらべる検査です.F-1タッピング,F-2手の移動の2 種類が準備されています.成績は,指定時間内に実行できる往復運動の回数によって表示します.
G.正確さ:位置の微調整を要する動作を正確に実行できるかをしらべる検査です.G-1釘打ち,G-2注ぎ入れ,G-3 マス目内記入の3 種類が準備されています.成績は下位検査それぞれの取り決めに従って記入します.
H.両手の協調:両手による同時同種動作,同時対称動作,交互同種動作,異種複合動作などが問題なく実行できるかをしらべる検査です.H-1タオルたたみ,H-2巻き取り,H-3紐結びの3 種類が準備されています.成績は下位検査それぞれの取り決めに従って記入します.

 

〈『診断』の実施手順〉
●大まかな流れは次のとおりです(下図参照).
1)『手・上肢使用状況』の調査を行います.これはその後に行う検査の種目を決めるための重要なステップです.しかしかなりの時間を要しますので,十分な理由がある場合は選択実施または省略することができます.
2) 検査種目を選択します.1)の調査記録紙の最右欄にあるA?J のどれに?がつけられたかに注目し,同じ記号が付されている検査を実施候補としたうえで,その全部または一部を選択してください.
1)を実施せずに検査に進む場合は,それぞれの理由に従ってください.
3) 検査を実施します.各検査の実施手順は,それぞれの「検査手順・記録紙」の中に述べられています.
4) フェース・シートを完成させます.調査結果の概況,検査結果の概況,総合診断の欄には,評価者の見解を自由形式で述べてください.

20130627-aboutnomate

〈検査用品〉
●握力計,ピンチメーターのほかは,多種類の日常物品を使用しています.
●検査条件を一定にするため,すべての検査用品の仕様を特定しています.詳しくは『NOMA 診断で用いる検査用品とその仕様Ⅰ・Ⅱ』を参照してください.
2009 年06 月18日/2013年6月28日改訂

 

2013年06月28日