『NOMA手・上肢機能診断』の公開にあたって

作業療法士にとって手と上肢は特別な意味をもっています.なぜなら手と上肢はひとと世界を結ぶインターフェースのひとつであり,ひとが作業を行うための必須アイテムだからです.
手と上肢は形態可変性に富み,これに感覚,パワー,スピード,微調整機能,両手協調機能が加わって多様な機能を生み出しています.大脳皮質の運動,感覚両野における手・上肢の領野が際立って広いのは,手・上肢の運動・感覚機能が際立って複雑であることの証しです.しかし,作業療法臨床において,この複雑な機能を診断することは決して容易なことではありません.
手・上肢の機能について,作業療法臨床でほんとうに役立つ診断をするにはどうすればよいか.私たちはずっとそのことを考えてきました.鎌倉は脳性まひ児や脳血管障害後遺症の人びとを診ながら,あるいは運動失行症の人びとを診ながら,また中田はハンセン病や糖尿病の人びとを診ながら,あるいはいわゆる「手の外科」の患者さんたちを診ながら,そのことをずっと考えていました.1980年代から二人は頻繁に共同研究を行うようになり,次いで機能診断法の開発に取り組むようになりました.
一般に評価法(ここでは診断)には,万全を期せば期すほど時間的不経済が生じるというジレンマがあります.そこで私たちは,トップ・ダウン思考を取り入れ,「ある程度詳しい検査メニューを取り揃えておくが,患者のG問題Jに応じてそれらを使い分ける」方式を基本に置くことにしました.また照準を,Gある程度の動きをそなえてはいるが動きの不全さが問題となるような手Jに,すなわち軽?中等度機能障害の手に合わせ,機能訓練の立案に役立つ情報が得られるような評価法(=診断法)を開発することにしました.その努力は,長い年月を経て2006年に一応の完成をみました.
次に私たちは,できあがった『診断』を何人かの作業療法士の方々に試していただき,この『診断』が作業療法の立案に影響を与えるかを調べました.結果はyes でした(中田・鎌倉,2007 年日本作業療法学会ポスター発表).これに力を得て私たちは,今後もっと多くの方々にこの診断法を使っていただき,さらなる改良を加えたいと考えるようになりました.
そこで私たちは,ただちにこの『診断』の研究・普及活動を行うグループとして『NOMA ハンド・ラボ』を立ち上げ,同年8月にワークショップという形の普及活動を開始しました.またホームページの開設とともに,『NOMA 手・上肢機能診断』検査手順・記録紙などのPDF 版を公開することを決意しました.そしてこのたび,実現にこぎつけることができました.
このホームページには,『NOMA 手・上肢機能診断』の概要のほか,実施上の注意,検査手順・記録紙,『NOMA診断』で用いる検査用品とその仕様Ⅰ,Ⅱを掲載しています.ご質問・ご意見もお受けできるようになっています.たくさんの方々に使っていただきながら,『NOMA手・上肢機能診断』をよりよいものに育てていきたいと考えています.どうかよろしくお願いいたします.

 

2024年4月
NOMAハンド・ラボ
代表 中田眞由美
URL:http://www.noma-handlab.com